事業の損失について、理事も責任を負うのか?
【質問】
文化・芸術振興を目的とする財団法人の理事を務めています。
数年前に美術館を開館したのですが、予想外に入館者が集まらず、美術館事業に多額の損失が発生してしまいました。
この損失について、私も責任を負わなければならないのでしょうか?
ちなみに美術館自体の建設計画は代表理事が中心となって進めおり、理事会では建設計画について簡単な報告がなされていただけです。
【回答】
単に理事会で賛成しただけであっても、理事には善管注意義務の一環として他の理事に対する監督・監視の義務があります。これを怠ったとして、損害賠償責任が肯定される余地があります。
そもそも理事は、法人に関して善管注意義務を負うものとされています。
この善管注意義務の一環として、理事は法人全体の業務に関し、法人に不利益が生じることを防止するため、他の理事や使用人・従業員を監督・監視する義務を負います。
そして、法人に著しい損害を及ぼす恐れのある事実がある、と発見したときは、直ちにその事実を社員(監事を置く法人なら監事)に報告する義務があります。
そのため、事業を行うことに賛成しただけの理事であっても、代表理事の業務執行を監督・監視していく義務は当然にあると考えられます。
代表理事が行っていた事業が失敗し、法人に損失を与えた場合は、この義務を怠ったものとして損害賠償責任が肯定される余地が出てきます。
とは言うものの、事業の失敗からの損害賠償責任を必要以上に恐れていては、理事の業務に支障を来しますし、何より法人の発展を妨げる、なんてことになったら本末転倒です。
そこで、株式会社の取締役に関する、いわゆる「経営判断の原則」が理事の責任追求の場面でも考慮されるべきであると考えます。
「経営判断の原則」とは、善管注意義務が尽くされたかどうかは、行為当時の状況に照らして、合理的な情報収集・調査・検討などが行われたか、及びその状況と理事に要求される能力水準に照らして不合理な判断がされなかったかを基準になされるべき、というものです。
そのため、理事会での簡単な報告だけで安易に賛成するのではなく、新規事業に関して十分な情報収集、調査、検討を加え、その上で合理的な判断を下すことが、善管注意義務を果たしたことにつながるのです。
もし、理事会等の検討だけでは不十分と感じたならば、自ら積極的に情報収集等に動くことも、後に損害賠償責任を追及されないためにも重要です。
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